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執筆者の写真弁護士 仲林茂樹

相続と争族

仕事がら、相続案件も受任することがあるのですが、相続案件と言っても2つの類型に分かれます。

その一つが、単なる相続のお手伝いという類型です。

普通は、相続人で行えばいいのでは?お金支払って必要なのかな?と思われるのですが、そんなに簡単ではないというのが正直なところです。

引っ越しを考えてみてください、結構いろいろな契約における住所変更が必要になりますよね。

  • 銀行口座の住所変更

  • クレジットカードの住所変更

  • 運転免許証の住所変更

  • 保険の住所変更

  • 健康保険の変更(協会けんぽの場合)または、加入・退会(国民健康保険の場合)

  • 携帯電話の住所変更

  • インターネットの回線の切り替え

  • 任意保険の住所の変更等。

思いつくだけでも、いろいろです。

ところが、相続の場合は、より大変で同じで全ての契約を引継ぐか、解除して終了させないといけません。

契約内容を調査するのも一苦労ですし(できない部分も多い)、昨今の本人確認やらなんやらで、銀行などの事務もややこしい。

戸籍等の相続人の資料を整えるのも、結構面倒だ

ということで、相続人の間では、仲が良く、遺産についての紛争等もないのですが、いかんせん、具体的な手続きについては、やる時間がないし、面倒くさいという人もいらっしゃいます。

このような場合に、専門家が全部の手続きについて時間をかけて処理するという類型です(この場合、相続人の一人に全部やって貰う方法もありますが、しこりが残ります。なぜならば、一人に苦労を押し付けて、他の人はなにもしないのに財産を承継することになるのですから、動いた相続人の気持ちとしては、なんとなく釈然としないでしょう。)。

たしかにお金がかかるのは嫌だなぁ…という方も多いでしょうが、一方でこのような相続手続きを一生涯に何回もする方などはいないと思われるので、時間とエネルギーをかけたとしても、熟練することによる利益などはないのです。

このような場合、大体税理士の先生に依頼する方が多いのかなと思います。

次に、やはり相続人の間で遺産の承継について、争いがあるという場合です。

この場合は、争族となってしまうことになります。

争いといっても、本当に争点(問題点)は多種多様です。


①遺言書の争い

②遺産の範囲の争い

③寄与分や特別受益の争い

④遺産の分割方法の争い

⑤気持ちの問題


これらのうち、一つだけが問題というのはあまりなく、複数の問題が並列して存在することが普通です(まず、①から④の争いがあるのですが、当然付随して⑤もついてきます。)。

そうするともはや簡単には収まらないことになります。

1年?2年?いえいえ、ひどいときには10年超えることもあります。

年数を重ねると、⑤の気持ちの問題(怒り)がどんどん大きくなり、より解決が困難となっていくのです(ちなみに、⑤は弁護士も裁判官も口頭では理解していますが、本心からは理解しません。なぜか?気持ちの問題は法的に解決しないので、検討しても無駄だからです。数学者に恋心を数式で表して!と言っても、数式にできないのでわかりません、と同じ感覚です。)。

私はそんなにお金を持っていないから、子どもたちは争わないだろうと思われる人もいるかも知れませんが、そうではないのです。

多いか少ないかではなく、⑤気持ちの問題の比重のほうがより大きいウエイトを占めてしまいます。

逆に、資産より負債が多い債務超過のほうが、相続人が一致団結して相続放棄を行うので、争族にはならないぐらいです。

また、争族になった場合、弁護士と税理士の見解が真っ向から衝突する場合があります、弁護士は依頼人の利益のため、依頼人が獲得する財産が一番多い(ただし、法律上認められる範囲で)方法を選ぼうと考えますが、一方税理士は、一番課税額が少ない節税に適した方法はどうだろうかという視点で相続財産の承継方法を考えていくことになります。

そうすると、お互いの意見が食い違うということもよくある話です。

このような争族になることを防ぐにはどうしたらいいでしょうかと、皆さん思うところでしょうが、これに対する特効薬はありません。

(亡くなったあとで、争いになるので、完全な対策などはないのです。遺言書があるだから大丈夫ともならないです。遺留分の紛争は、遺言書がある場合に、不動産や未上場株式(中小企業の株式)等の評価額について争いとなることも多く、遺言書が完全に防護策として完全というわけではないのです。)

争族となる原因は、やはり不公平感が中心になるので、不公平感をいかに無くすか、生前からコミュニケーションをしっかりとっておくしか方法がないのです。

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