弁護士の仲林です。
私も、引き継いで詐欺のお話をしようと思います。
今回は、いつもと違い、結論からお話して、その後理由をお話します。
まず、結論からいいますと
いわゆる劇場型詐欺の被害を受けないためには、ただ一つ、「急がせるのは詐欺」ということを覚えてもらうしかないということになります。
理由は、少し長文になります。
まず、劇場型詐欺にあった場合、その被害回復は、ほぼ不可能に近いというのが現状です。
なぜならば、詐欺集団は、捜査機関（警察官、検察官）の捜査を免れるため、また、捜査を受けたとしても、刑事訴訟において、いかに証拠を捜査機関に掴ませないか、掴まれたとしても、裁判で使用できる証拠をいかに作らせないかに、エネルギーを注ぎ込みます。
（実は、刑事訴訟法という法律では、証拠については厳格な制限があり、捜査機関が知っているだけでは、何ら訴訟では使えないのです。）
例えば、劇場型詐欺に使われる連絡手段は、抹消すると、そう簡単に復元できないアプリケーション（テレグラム又はシグナル）を使い、口座については、他人名義の口座を使用し、出し子という口座から出金する役目の人間には、全く組織の全貌を伝えることすらありません（一番危ない役目なので、いつでも切り捨てられるようにしています。）。
その上、掛け子という電話をする人間は、日本国内におらず、外国から電話やラインをすることにより、捜査機関の権限が及ばないところで、犯罪行為を行っているのです。
では、出し子に損害賠償を、と思いますが、出し子に金はなく、刑務所に行くのでどうにもこうにもならないのです。
ちなみに、出し子が出したお金も、いろいろな口座や、現金の運び屋が運んで、最終的に海外の口座に行くと思います。
（なお、日本の口座内部の振込送金はしません、捜査機関にすぐに判明するからです。）
要するに、お金を振り込むということは、それほどまでに危険な行為ということになります。
では、劇場型詐欺にあわないためにはどうしましょうかというお話になります。
まず、テレビやインターネットで、劇場型詐欺（オレオレ詐欺、訴訟詐欺、還付金詐欺等）を見ると、「なんであんなのに引っかかるのか、あほやなぁ」と思うのが普通です。
しかし、そこには、犯罪者側の心理テクニックが存在します。
まず、詐欺をする詐欺集団は、もともと有利な立場にいます。
なぜならば、詐欺集団は、何時、誰に対して、どのような手法を用いて、詐欺をするかという選択権があります。
その上、詐欺集団は、これは詐欺に引っかからないと思うと、すぐに撤退する自由もあります。
一方で、受け手側である被害者側は、ある日突然、電話、郵便、ライン、メールなどで、詐欺集団からの連絡を受け、それに対しての決断を迫られることになるからです。
これは、詐欺集団にとっては、先手のイニシアチブを持っていることになり、はじめから被害者側が不利なのです。
そのうえで、過去の手法に共通点があります。
まず、オレオレ詐欺は、「今すぐお金がいる、絶対にすぐに返す」という息子らしい声。
発展形は、警察官と名乗る人間が「今すぐお金を払えば、事件にしない、取りに行かせる」等の誘導を行います。
次に、訴訟詐欺は、◯◯法務省訴訟センターというような、さも公的機関を名乗り、「今すぐに和解金、訴訟取消金、等を支払えば、訴訟がなくなります。いますぐではないと、止まりません、強制執行に移行します」などと誘導してきます。
そして、給付金詐欺は、「給付金、還付金があります、手続きをしないといけません、今この電話で方法を教えますので、すぐにコンビニのATMに行ってください。」などと発言してきます。
最後に、警察官を名乗る者の詐欺が流行っていますが、これも、「あなたの口座が（又はあなたの口座のお金がマネーロンダリングの疑いがあります。）、犯罪に使用されています、そのお金を一度こちらで預かるので、すぐに指定した口座に振り込んでください、などと言うわけです。
ここで、この詐欺の発展形は、複数の人物（偽物ですよ）を登場させます。
オレオレ詐欺の場合は、会社の上司、警察官、と名乗るもの
訴訟詐欺は、場合により弁護士を名乗るものがあり得るでしょう
給付金詐欺は、さすがに、複数人登場するのは聞いたことがないです。
警察官を名乗る者の詐欺は、複数の警察署、検察官が登場します。
ただ共通するのは、今すぐに決断させる。決断しないと大きな不利益を与えることになると告げる点です（給付金詐欺は、逆に利益を得られないということになります。）。
なぜでしょうか？
それは、これらの詐欺には、一つの共通点があるからです。
通常人間は、大きな不利益と、小さな不利益のどちらかを選択しなければならないという事態に迫られたとき、確実に小さな不利益を選択するという心理が働きます（むしろ普通の心理です。）
これは、大きな利益と、小さな利益の選択において、大きな利益を選択する人間の心理と同じです。
さて、ここで劇場型詐欺の特徴は、大きな不利益をあらかじめ提示し、それを免れるためには、小さな不利益の選択肢を与えていることです。（給付金詐欺は逆ですが。）。
オレオレ詐欺の場合は、息子が大変なことになる、でもお金を払えば息子が助かる。息子はお金を返してくれるだろう。
訴訟詐欺の場合は、数百万円の支払いを言われてるし、強制執行って動産とか預金とか全部取られるし、数十万なら払えば、大丈夫といっているからなんとかしよう
警察官を名乗る詐欺の場合は、逮捕、起訴、勾留、すごい大事になる、お金を一時的に振り込んだら、私は犯罪していないのだから、身の潔白は明らかになる、後で返してくれるといっているし
ということで、大きな不利益と小さな不利益の提示があり、小さな不利益を選択しようという人間の心理をついてくるのです。
問題は、その大きな不利益が、実は存在しないということなのですが、残念ながら、ここで今すぐに決断をさせるという詐欺集団の行為が効果を発揮します。
なぜならば、今すぐに決断となると、大きな不利益の根拠を確認する事ができないことから、大きな不利益を仮に真実と思うほかはないということになるからです。
あとから考えたら、あり得ないと思うのですが、それを思わせないようにする詐欺集団のテクニックがあるのです。
ゆっくり考えると、大きな不利益の根拠がおかしいと思うところを、今すぐやらないと不利益になりますよ、あなた裁判にかけられますよ、息子が偉いことになりますよ、どうしますか、今すぐと矢継ぎ早に言われると、大きな不利益の根拠の有無を検討するまもなく、それが真実であることを前提として判断してしまうのです。
ゆえに、私は詐欺にあわないと思う方ほど、危ないというのは、ある意味真実なのです。
次に、今流行りの、警察官を名乗るもの詐欺について、なぜありえないかをあらかじめ知っていれば、少しは効果があるので、説明いたします。
まず、警察官が本気で、立件（裁判にする）と思っている場合、ラインなどやそんな連絡はしてきません。
警察官は、犯罪事実を裏付ける客観的証拠（口座の履歴、海外送金の履歴、電話の履歴、ラインの履歴、交友関係、行動等）をすべて調べ上げて、ある日突然、朝に被疑者（犯罪を犯したと思われる者）の家に訪問したうえで、逮捕令状を示して、逮捕します。
なぜか、簡単です、被疑者に、あらかじめ警察から連絡があれば、逃げるか証拠を隠滅するからです。
このように、被疑者が逃げないように、かつ被疑者の想定の言い訳を、可能な限り潰すだけ潰して、最後に被疑者と接触するのが普通です。
また、仮にそこまでではないけど、任意で話を聞きたい場合においても、たしかに、警察から電話がありますが、「この件であなたに話を聞きたいのですが、この日にこれますか？」と時間の猶予をくれますし、日程が合わないなら変更も可能です。
任意の取り調べを拒否し続けると、逮捕される可能性は発生しますが、変更を認めないほど、警察もむちゃくちゃは言いません。
また、警察官は、職務上ラインを使いません、なぜならば、警察官は所内で使用する警察電話回線という専用回線があり、また、PC等の使用には、インターネットに直接は接続されておらず（捜査資料が漏洩したら笑えません）、かつラインという、危なっかしいものを使用して捜査することは考えにくいです。
特に、捜査機関は、犯罪の立証には使えないが、いろいろ情報を仕入れて保管しています。
これは、犯罪を行う蓋然性が高い者の動向などの情報も含まれており、犯罪集団からみると喉から手がほしいほどの情報です。
ゆえに、不正アクセスには、相当注意していることは言うまでもないです。
個人的には、警察官の職務用の携帯電話と個人の携帯電話は峻別しており、職務用の携帯電話はプライベートでは使えないようにしていると思います（根拠はないですが、情報漏洩は冗談では済まないので、相当厳格にしていると思います。下手をすると、携帯電話を職務では一切使用していない可能性もありますね。）。
なお、口座に入ったお金は、単なる数字なので、振り込んでも、それが犯罪に使用されたお札なのかわかりようがないです。
また、警察官が口座を凍結するなどとも言いません。
やるのであれば、ある日突然凍結です。
仮に、犯罪収益の没収の準備として口座のお金を押さえる場合も、裁判官の令状をもって、検察官が指揮することになりますが、ある日突然口座からお金が消えています。
なぜか、あらかじめ通知すれば、その日のうちにお金を移動させるではないですか（ネットバンクなら、携帯電話からすぐに、違う口座に移動させることができる。）。
ということで、普通は、おかしいと思うのですが、先程お話した通り、ここで、時間の猶予を与えないという詐欺集団のテクニックがあるのです。
最後に、長文にはなりましたが、過去のオレオレ詐欺が、進化しているとしてもただ一つの共通点は、急がせるということなので、急がせるやつは詐欺の可能性が高いというお話でした。
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